【感想:本】雨の日のアイリス 著:松山剛 電撃文庫
0:目次
1:書籍情報
題名【雨の日のアイリス】
著者【松山剛】イラスト【ヒラサト】
2011年5月10日 初版
2012年5月10日 2版
- 作者: 松山剛,ヒラサト
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/05/10
- メディア: 文庫
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2: 作品概要
ある工学博士のメイドロボット「アイリス」は、ある日道ばたでスクラップ同然の姿となって発見される。幸せな暮らしをしていたはずのアイリスが、何故このような結末にたどり着いたのか。アイリス自身の一人称で語られる感動物語。
3:総合得点 66/100点
総合得点:66/100点
総括的評価:36/50点
項目別評価:30/50点
4:総括的評価 36/50点
『不思議な世界観で進行する、王道ながら起伏に富んだ展開。美しくまとまった結末には、感動が待っている』
「ロボットの人権」という題材は、多くのSFで取り扱われてきた題材だろう。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」をはじめ、私自身もこのテーマに関わる小説を幾つも読んだことがある。この小説はそんな、良く言えば王道、悪く言えばありきたりなテーマの作品だ。
この作品は、前半と後半で大きく物語の性質が変わる。前半はメイドロボットである主人公と、その主人であり工学博士である人物との日常がコミカルに描かれる。そして後半は、突然訪れた転機によって前半とは全く違う展開で進行してゆく。それでいて前半も後半も一つの物語として綺麗にまとまっており、二つの雰囲気の違いがむしろ良い対比となっている。前半の日常パートで張られた伏線が後半に回収されるという構成も秀逸だ。
ただ、概ね予想通りの展開で結末まで進み、大きく話が動くときには露骨にその事を仄めかす文が入る点は、面白みが薄いと感じた。確かに衝撃的なシーンは多くあるのだが、それが起きると前もって予告されてしまえばその衝撃は半減してしまう。
ところで、この作品のい世界観はかなり面白い。相当科学技術が発展し、高度なロボットを作る事ができるだけのテクノロジーがあるのにもかかわらず、二足歩行ロボット以外の科学技術レベルは現代とそう変わらないか、むしろ低いくらいである。そのような異常な技術レベルの偏りがある世界観はとても魅力的で、興味深かった。
しかしその背景などが作中で語られることは一切ない。精神回路(マインド・サーキット)なる素子が技術の根幹を成すという事だけはなんとなく読み取ることができたが、科学技術の偏りに関わりそうな作中の要素はこれのみである(私が気がつくことができなかっただけかも知れないが)。そしてその精神回路(マインド・サーキット)なる素子がいかなる物なのかさえも全くといっていいほど語られない。ロボットが人間と同じようにテレビから情報を仕入れ、全てのロボットが人間の姿を模した姿で、それぞれの役割に最適化されることなく業務を遂行するという、かなり不思議な環境に一切の説明がないことにはとても不満だった。
その不満点が物語の随所随所で気になってしまい、物語に集中する妨げになってしまった。ストーリーの完成度はかなり高いため、その点が非常に残念である。
5:項目別評価 30/50点
5-1:ストーリー 8/10点
ストーリーについては、しっかりと起伏も盛り上がりもあり秀逸である。伏線も多く、全編を通してだれることなく一気に読むことができた。
主人公の、ロボットだからこその悩みや思い、そして仲間や家族への感情が複雑に絡み合った物語は、分かりやすいながらも深い。前半では少しの笑いもあり、全体的な完成度がとても高いと思う。
一巻でしっかりと完結するのも良い。
5-2:構成 4/10点
構成については概ね違和感を覚えるような点は見当たらなかったが、全体を通して少しだけ残念に思う事があった。それは劇的な展開を迎える前に、あまりにも露骨な仄めかす演出が入るという事だ。
この作品にはいくつか衝撃的な展開を迎える部分がある。それ自体は最高なのだが、事前にいつ頃に劇的な展開を迎えるかがはっきりと分かってしまい、その劇的な展開がどのような物なのかもなんとなくであるが予想が付いてしまう。起こると分かって迎える劇的な展開は、もう劇的な展開とは呼べない。読者は、無意識にしらけてしまうからだ。
確かにこの構成のおかげで安心して読み進めることはできるかも知れない。しかし、その安心感と引き換えに、物語のハラハラドキドキ感、つまりは緊張感を手放してしまうことになる。それならば、その劇的な展開をより盛り上げるような構成の方が良かったのではないだろうか。
5-3:キャラクター 6/10点
この作品のキャラクターは、それぞれの立場によって最も映える要素を詰め込んであるような感じがした。主人公をはじめとするロボット達は、ロボットならではの魅力を存分に引き出されており、人間は人間でとても魅力的だ。
ただ、物語上の役割を果たすために作られたキャラクター、という印象を持った登場人物も何人か見受けられた。多少は仕方ないと思うが、それがあまりにも露骨であったため読み手としては幻滅してしまった。
5-4:文体・表現 4/10点
文体・表現については、気になる点があった。それは、登場人物が絶対に知っているはずのない単語を用いて世界観を説明している部分があった点である。
この作品は、今の私達がいる世界とは全く別の世界の話だ。つまり、この作品の登場人物は、私達の世界には存在してこの作品の世界には存在していない物を知っているはずはない。それなのに、そのような物を例に挙げて、この作品固有の生物や事柄を説明する点が見受けられたのだ。
三人称で語られる物語ならば良い。しかし、一人称で語られる作品でこの説明をされると大きな違和感を覚えてしまう。私は読み進めるに当たって、そのような説明がされるたびに何かが引っかかるような感覚を持ってしまった。
その点以外は、擬音が多いという事が少し気になった程度で、読み進めるのに支障は無かった。
5-5:読了感 8/10点
この作品の読了感は、本当に気持ちが良かった。ただ清々しいだけではなく、何か大きな物が心に残っているような、そんな重みも感じられる、深い味わいを含んだ気持ちの良さだ。
手放しにハッピーエンドだとは言えないのかも知れないが、このような結末だからこそこの読了感を生み出すことができているのだと、私は思う。
6:最後に一言
今回は無し。
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