【感想:本】なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る 著:野崎まど メディアワークス文庫
0:目次
1:書籍情報
題名【なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る】
著者【野崎まど】
レーベル【アスキー・メディアワークス:メディアワークス文庫】
2013年4月25日 初版
2016年3月7日 第10版
なにかのご縁―ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る (メディアワークス文庫)
- 作者: 野崎まど
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2013/04/25
- メディア: 文庫
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2: 作品概要
ある日、主人公は人の言葉をしゃべる謎の白いうさぎに出会う。そのうさぎは、人と人との「縁」を切ったり結んだりできるという。そしてその影響からか主人公も「縁」が紐のような形で見えるようになる。それをきっかけに主人公とうさぎは、人と人との「縁」にまつわるトラブルを解決してゆくことになる。
3:総合得点 78/100点
総合得点:78/100点
総括的評価:38/50点
項目別評価:40/50点
4:総括的評価 38/50点
『「縁」をテーマにしたどこか心温まる物語。良くも悪くも「らしくない」作品』
この小説の著者である野崎まどは、私が最も好きな作家である。私はこの作品を読むまでに、野崎まどの書いた小説を相当数読んできた。その上でこの作品の感想を言えば、「らしくない」という物になる。
この作品は人と人との「縁」というのが重要なテーマとなっている。一言に「縁」と言ってもそのあり方は様々であり、一様にその意味を定めることはできない。友達同士の縁。家族の縁。そして、恋の縁。それは時に本人の意思とは関係なく繋がり、そして切れてゆく。そんな流動的な「縁」を司る「妖精」や「神」というようなものとして、この作品では「うさぎさん」という存在が登場する。
「うさぎ」という動物が「縁起の良い動物」という意味で「縁」を隠喩しているのかは定かではないが、兎に角この「うさぎさん」というキャラクターが魅力的だ。可愛らしい見た目をしていながら行動はニートのおじさんそのもので、主人公をいいように扱う。しかしやるときはやるというギャップに富んだ、人間よりも人間らしい性格は温かい物語をより一層引き立てている。
野崎まど特有の語り口はこの作品でも遺憾なく発揮されており、コミカルで冗談めいた文体は妙な吸引力があり、大いに楽しむ事ができた。
この作品では概ね重いストーリーが排除されていて、安心して読むことができる。いつもの野崎まどとは大違いである。
5:項目別評価 40/50点
5-1:ストーリー 8/10点
ストーリーは、主人公の周りの人物の「縁」に関する問題を主人公とうさぎさんのコンビで解決するという流れで進行する。それぞれの章のなかでうまくストーリーがまとまっており、混乱することもなかった。
最後の章も含め、基本的に主人公は問題の当事者になることはない。そのため主人公は終始うさぎさんと周りの人々に振り回される事になる。その部分が、主人公が主人公らしくないと少しだけ思った。
5-2:構成 7/10点
この小説は4つの短編が組み合わさることで構成されている。このような構成はよくあるので、違和感を覚えることはなかった。
また、章ごとに細かな伏線もあり、殆どの場合その章の中で回収される。しかし一部の伏線は章を跨ぐことがあり、これこそが短編集では味わえない長編の魅力だと思った。
5-3:キャラクター 9/10点
野崎まどの大きな特徴の一つに、実際には絶対に存在しないであろう極端なキャラクター性という物がある。この作品もその例外ではなく、数多くの登場人物が到底あり得ないような性格をしている。しかしその極端なキャラクターが、確かなリアリティーを持って物語を進めていく様は流石としか言い様がない。
特にそれが顕著なのは、主人公の一学年上の先輩である西院澄子という人物である。詳しくは小説を読んで欲しいが、全編に登場して読者に強烈な印象を与えるだろう。しかし、小説を読み終わったときにはその極端な存在が愛しく思えてくるはずである。
5-4:文体・表現 9/10点
テンポ良く語られる文体は、脳内に直接言葉を埋め込まれるような不思議な感覚に囚われる。そもそも小説の理想型は、文章を文章として認識するのではなく、文章から意味だけを読み取らせることだと私は考えている。その点において、私の知る限りで野崎まどの右に出る者はいない。
ただ、この作品は野崎まどらしくない「普通の話」であるため、その特徴的な語り口はマイルドになっている。それはこの物語の雰囲気上しょうが無いのだが、すこし物足りなく感じた。
5-5:読了感 7/10点
読了感は概ね心地よく、心が温まった。ただ、最後の数ページのテンポが異様に早く、淡泊な印象を拭いきれない。さらに、野崎まど的な予想の斜め上を遙かに超えてゆくようなオチを期待して読むと、少しがっかりするかも知れない。
しかし、野崎まどらしくない、とても気持ちの良い読了感であるのは確かである。
6:最後に一言
私は野崎まどが大好きで、大きな本屋に行くと必ず野崎まどの本を探す。私の家の近くの本屋では一冊も野崎まどの本が置いていない。そのため、私がそれらの本を買うときには殆どの場合インターネットである。家の近くの本屋にもおいて欲しいものである。
7:このブログについて
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