ゲラの読書&ゲーム日記

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不定期に本やゲームの感想を書いていきます

【感想:本】アルキメデスは手を汚さない 著:小峰元 講談社文庫

0:目次

1:書籍情報

 題名【アルキメデスは手を汚さない】

 著者【小峰元】

 レーベル【講談社講談社文庫】

 1973年8月 初出

 2006年9月15日 初刷

 2017年11月21日 第22刷

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

 

2: 作品概要

  第19回江戸川乱歩賞受賞作。ある女子高生の死を始めに、いくつもの不可解な事件が巻き起こる。その裏にある真実を巡り、大人と高校生が対立する青春ミステリー。

3:総合得点 68/100点

総合得点:68/100点 

 総括的評価:35/50点

 項目別評価:33/50点

4:総括的評価 35/50点

『青春小説と本格ミステリーの高度な融合。当時の若者達を幻視する作品』 

 

 私は70年代当時のことは全く知らない。知識としては知っていても、実際にその雰囲気を体験したわけではない。そのため今に残る写真や、動画などで知るばかりで、実際のところ70年代の日本とはどうだったのか、どのようなものだったのかは分からない。

 しかし、この作品からは70年代の人々の考え方、雰囲気のような物をなんとなくではあるが窺い知ることができた

 学生運動も退潮し、暴走族などが現れて、学生運動に参加していた大人達から「根性や反抗心がない」と言われた高校生。高いビルを地元の反対を押し切って乱立させる業者。暴動を起こす赤軍。そんな時代を踏まえてこの作品を読むと、自ずと作者の言いたかったことが見えてきた気がした

 40年以上も前に書かれた作品ながら、この作品の示す物は現代にも通ずる点があると思う。変動する若者の貞操観念や、それに思うところがある大人達。それぞれに信念や心情があり、お互いにそれらを守ろうと対立する姿勢。それら青春小説の因子を良質なミステリーで纏めたこの作品は、青春小説として見ても、ミステリー小説として見てもレベルが高く、エンターテインメント性にも優れている。当時はまだ「青春ミステリー」というジャンルすら存在していなかったのにも関わらずだ。

 「アルキメデスは手を汚さない」という題名を根底に展開されるミステリーは最近のミステリーと比べると少々明瞭さに欠けるが、題名に隠された真意が解けたときには鳥肌が立った

 もしかしたらこの作品は今の時代には合っていない部分も多々あるのかも知れない。しかし、当時の考え方や雰囲気を窺い知ることができるという点と、その時代柄を反映したメッセージ性を鑑みて、この点数にしたいと思う。

5:項目別評価 33/50点

5-1:ストーリー 7/10点

  ストーリー自体はミステリーの形式で展開していく。一つの事件を元に複数の事件が連鎖し、それらが一つの真実を示していくというミステリーの面白さは十二分に味わうことができた。そして、そこに青春小説的なメッセージ性が組み込まれており味わい深く、それでいて娯楽小説的なコミカルな展開をも楽しめた

 この小説のストーリーで最も印象的なのは、なんと言っても鮮やかなタイトル回収の部分だ。「アルキメデスは手を汚さない」という、この一見不可思議にも思える題名にはミステリー的な要素と、青春小説的なメッセージ性との両方が内包されている。それが美しいまでに解される瞬間、ここまでの高揚感を味わえる小説は、今日の小説でもそうそう存在しないだろう

5-2:構成 6/10点

  この小説は、主人公が存在しないという、今日ではあまり見ることのなくなった古典的なミステリーの形式で展開される。そのため少しだけ戸惑うこともあったが、大きな違和感を覚えることはなかった。

 ミステリー特有の緻密に練られた伏線と、それらを鮮やかに回収する構成はしっかりと存在しており、純粋なミステリー小説にも引けを取ることはない

5-3:キャラクター 7/10点 

 若者達をあの手この手で自分の手の届く範囲に収めようとする大人達と、それに対して粋がるように反発する高校生達の対比が圧倒的なリアリティで描かれていて、当時を感じることができた。一人一人を見てみてもそれぞれに信条のような物を感じることができ、本当に存在したのではないかと錯覚してしまうほどだった。

 ただ時代の考え方の差というのがあまりに著しく、感情移入する事はできなかった

5-4:文体・表現 6/10点 

  古風な表現が多く用いられており、読むのに少々難があった。しかしそこまでの違和ではなく、それも時代柄を示す一種の表現として役割を果たしている。

 その古風な表現の質は非常に高く、表現されている事が目の前に浮かぶようだった

5-5:読了感 7/10点

 ミステリーという物はストーリーの関係上、どこかやるせない終わり方であったり、不穏な場面で終わることも多いのだが、この作品は青春小説のようなすっきりとした終わり方である。そのため読了感は心地よかった。

6:最後に一言

  少し昔の作品は、古風な文体や表現のせいで数年前まで敬遠していた。しかし60年代に書かれた海外の小説を読んだことで、少しずつではあるが読むようになった。そして、そのあたりの日本や世界の情勢などを少しずつ知り、教養として身につけることができた気がする。

 私が小説を読むのは楽しいからであって、勉強や教養のために読んでいるわけではないのだが、楽しんでいる間にそのような教養を身につけることができたのであれば僥倖である。

7:このブログについて

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