【感想:本】優雅な歌声が最高の復讐である 著:樹戸英斗 電撃文庫
0:目次
1:書籍情報
題名【優雅な歌声が最高の復讐である】
著者【樹戸英斗】イラスト【U35】
2018年2月10日 初版
2: 作品概要
怪我のせいでサッカーを辞めてしまい何事にも無気力になった高校生の主人公が、プロの歌手であるヒロインと出会うことで変わっていくボーイ・ミーツ・ガール。
3:総合得点 78/100点
総合得点:78/100点
総括的評価:40/50点
項目別評価:38/50点
4:総括的評価 40/50点
『清々しいほど王道を往く、万人に薦められるボーイミーツガール』
ありきたりな展開。どこかで見たことのある話。なのに、この小説に私は何処までも引き込まれた。
「王道の展開」というのは確かに存在する。そして、その通りに進行していく物語は皆一様で退屈だ。だから面白さとオリジナリティーは切っても切り離せない関係にある。しかしこの小説は予想通りの展開にもかかわらず、心地よく読むことができた。そんな、不思議な引力がこの作品には存在する。
正直、私は恋愛物が少々苦手だ。なぜなら、必ずどこかで不快な展開になることが多いからである。それに対し、この作品は何処までも美しく、純粋で綺麗だった。
主人公とヒロインの関係も素晴らしい。甘酸っぱい会話も、着かず離れずの微妙な距離も、全てが最も心地の良いバランスで構成されている。そして、誰もがこの2人の恋の成就を見守りたくなり、無意識に応援してまうのだ。
恋愛には理由が必要だと私は思っている。たとえそれが偽りでも、建前だったとしても、一組の男女が一緒にいることにはそれなりの理由が必要だ。そして、それがしっかりと描かれている小説は、多いようで意外にも少ない。そして、この作品はそんな少ないものの一つである。
主人公がヒロインのどのような部分に惹かれ、ヒロインが主人公のどのような部分に惹かれたのか。それが、変化する視点を通して克明に描写されている。だからこそ王道を往くストーリーであるにも関わらず確かな面白さを誇っているのかも知れない。
5:項目別評価 38/50点
5-1:ストーリー 8/10点
兎に角、王道。この作品のストーリーを言い表すにはこの一言に尽きる。挫折の中にあった主人公を明るく照らすヒロイン、という前説からしてよくあるボーイミーツ・ガールという印象を持ち、読了した今でもその印象は変わらない。しかし、その王道がここまで気持ちよく描かれた小説は殆ど無い。変に独自性のある物よりも、こちらの方が遙かに優れている。そして、誰もがこの物語に心が動かされることだろう。
5-2:構成 6/10点
王道なストーリーの通り、構成も素直で分かりやすく好感が持てた。
しかし少しだけ気になる点もあった。この小説で描かれるのは主人公が高校二年生の時だが、ヒロインと主人公の過去も話の根幹にかなり関わってくる。そのため主人公とヒロインの過去のエピソードが所々に差し込まれる。ただ、それの差し込まれるタイミングに少しだけ違和感があった。
5-3:キャラクター 9/10点
兎に角この作品の登場人物は魅力的だ。挫折の中にあるが根は強く優しい主人公と、そんな主人公を立ち直らせようと画策するヒロインは勿論、友人、クラスメイト、家族。何処を見ても美しく輝いている。よくある、ストーリーの関係でねじ曲げられた人間も存在しない。
5-4:文体・表現 7/10点
全編一人称ではあるが、自分語りをするタイプの一人称ではなく、客観的な一人称である。そのためライトノベルにありがちなクドさは全く感じない。
そして、この作品は視点が変わることがある。視点が変わるのは結構リスキーなのだが、この作品では視点が変わるメリットが最大限生かされており、違和感を覚えることはほぼ無かった。
5-5:読了感 8/10点
心地の良いストーリーの通り、読了感も透き通るように爽やかで気持ちが良い。概ね予想通りの結末を迎えるのだが、それでもここまで綺麗な読了感を味わえる作品はそうそう無い。そういう意味では、この小説の希有な部分なのかも知れない。
6:最後に一言
正直、この小説は読む前にはほぼ期待していなかった。しかし、その期待をいい意味で裏切ってくれたと言える。このような裏切りがあるから、面白そうだと思えない小説でも思わず手に取って読んでみたくなってしまうのだ。
ところで、この小説にはサッカーの話が出てくるのだが、私はスポーツものがあまり好きではない。そもそも、いわゆる「スポ根」と呼ばれるような作品が小説というコンテンツにはあまり多くない。そのような物は殆ど漫画である。これは、小説を読むような層はインドア派が多く、スポーツに熱くなるような人が少ないという事を示しているのかも知れない。
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