【感想:本】タタの魔法使い 著:うーぱー 電撃文庫
0:目次
1:書籍情報
題名【タタの魔法使い】
著者【うーぱー】イラスト【佐藤ショウジ】
2018年2月10日 初版
2: 作品概要
第24回電撃小説大賞の大賞受賞作。
ある公立高校のある教室に、突如として現れた魔法使いによって、その学校の全校生徒の「将来の夢」が全てかなえられる。そしてそこから始まる一連のサバイバルを、第三者が生存者から訊いてそれを纏めたという設定で語られる青春群像劇。
3:総合得点 52/100点
総合得点:52/100点
総括的評価:27/50点
項目別評価:25/50点
4:総括的評価 27/50点
『第24回電撃小説大賞の大賞作。ここ数年の電撃大賞受賞作品と比べると少々物足りないが、読んで損はない良作』
電撃大賞は、多々存在するライトノベルの賞の中で最も規模の大きな賞であると言っても過言ではないだろう。私自身、ここ何年も電撃大賞の大賞受賞作品、というだけであらすじも見ることなく購入し、真っ先に読む事にしている。つまり、この本にしていた期待は、とても大きい物だったという事である。
率直に言えば、この作品はその期待に応えるものではなかった。特に去年、一昨年と連続で私の期待を遙かに超える作品だったこともあり「大賞に見合う作品」という肩書きのハードルが私の中で高くなりすぎていたこともあるのかもしれない。しかしそれを踏まえても、「電撃大賞の大賞受賞作に見合う面白さか」と誰かに問われれば、私は「否である」と答えるだろう。
しかし、この作品がつまらない訳では決して無い。いや、むしろかなり面白いほうだと思う。最後まで飽きずに一気に読んだし、結末も綺麗にまとまっている。しかし「電撃大賞には見合わない」と私が考える主な理由は、少々難しい語り口と、それ故の感情移入のしづらさにある。
この物語の視点はライトノベルとしては少し変わっている。どのように変わっているのかといえば「事件が全て終わった後に、その体験をした本人達から訊いたことを第三者が纏める」という体裁で書かれているのだ。つまり読者である私達は「物語の中で起こった事を物語の中の第三者が文章にした物を見る」という小説としてはかなり不思議な視点で物語を見ることになる。
この視点は新鮮で面白いと思うが、全てが終わった後、という点で感情移入がしづらい。そもそも主人公が存在しない作品であるため感情移入しづらいのは当然の事である。この作品についてはさらに完全な俯瞰視点という要素も加わり、感情移入する事がさらに難しくなっている。
感情移入が難しい事が必ずしも悪いことではないのだが、ことライトノベルというジャンルに関しては一人称視点の作品が多いため、かなり異色な作品という印象を持つことは否めない。
5:項目別評価 25/50点
5-1:ストーリー 7/10点
ストーリーでジャンルに分けるのであれば、一応「異世界転移物」という事になるのだが、よくある異世界転移ものとは違って、異世界の世界観やその地に住まう者との関わりやバトルなどの要素はあまりなく、転移させられた少年少女達のヒューマンドラマ的な話が主となっている。異世界でのサバイバルと、叶った、或いは叶ってしまった将来の夢を巡り揺れ動く青春特有の心情の物語はとても印象的だった。
しかし、ストーリー全体が単調で、盛り上がりに欠ける気もした。大きな伏線もあまりなく、結末もどこか味気なくて物足りない。この作品特有の感情移入のしづらさもあり、私にとっては少し残念だった。
さらに、取って付けたように挿入されるライトノベル的な話が少々気になった。全体的に真面目な雰囲気のストーリーの中に突然入るラブコメ的な演出には違和感があった。
ストーリーのオリジナリティーは相当あると思う。
5-2:構成 5/10点
至って普通、というのが構成に関しての私の感想である。はじめのプロローグ的な部分を除けば概ね時系列通りに事件のあらましを追っていくことになる。そのため特筆すべき点は見当たらない。気になる点もなかった。
5-3:キャラクター 3/10点
キャラクターについては、今ひとつという印象だった。確かに個性豊かで魅力的なキャラクターが多数登場するのだが、しっかりと小説内で語られるのはそのうちの2,3人のみである。群像劇なので多少描写が少なくなるのはしょうが無いが、それを加味したとしてもキャラクターについては物足りない、という印象が正直なところだ。
5-4:文体・表現 4/10点
この作品は独特の視点のため、小説ではあまり使われることのない文体や表現が用いられている。そこまで強いものではないが、見慣れない文体のため、全体的に読んでいて違和感があった。
また、何の前触れもなく突然通常の小説で用いられる文体に変化し、何の前触れもなく元の文体に戻る、という部分かかなりの数見られた。ただこちらは思ったほどの違和感はなかった。
5-5:読了感 6/10点
結末が綺麗なため、読了感は心地よい。しかし、どんでん返しや圧倒的な感動を期待して読むと、あっさりとした終わり方に驚くかもしれない。逆を言えば、それだけ結末がすっきりとしていて、不快感もあまりないという事である。
また、最後に露骨な次巻への伏線があるが、一応一巻完結の物語である。
6:最後に一言
「電撃大賞の大賞受賞作」という色眼鏡で見るから評価が芳しくないだけで、この作品自体は言うほど悪くない。何も知らずに読んでいれば、もっと評価も高かったのかも知れない。
それと、この本は家から車で30分ほど行ったところにあるそこそこ大きな本屋で購入したのだが、その本屋ではこの本は電撃大賞の大賞受賞作だというのに広告の一つも無く、平積みすらされていなかった。待遇が酷すぎである。
7:このブログについて
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