ゲラの読書&ゲーム日記

ゲラの読書&ゲーム日記

不定期に本やゲームの感想を書いていきます

【感想:本】項目の説明と評価方法について

0:目次

1:項目の説明

 本の感想ページの各項目について説明します。

1:書籍情報

 その本の情報です。「題名」「著者」「イラスト(あれば)」「レーベル」「初版の日付」「読んだ本の版数(読んだ本が初版なら無し)」「amazonの商品ページ」の順に載っています。

2:作品概要

 その本がどのような物なのかを簡単に纏めています。詳しいあらすじは商品ページを参照してください。

3~5:評価

 評価については、次の項目をご覧ください。

6:最後に一言

 最後に一言だけ感想の感想を載せています。この部分は評価に関係ありません。

2:評価方法について

 他の作品と比べることはできるだけ避けるようにしています。

 また、この評価は完全に個人の評価ですので、意に沿わない評価がされることがある可能性があります。ご了承ください。

3:総合得点 100点満点

 総括的評価50点、項目別評価50点の計100点満点で評価します。

4:総括的評価 50点満点

 私自身が、どれくらい面白いと思ったのかを表しています。こちらはもう一つの評価項目である項目別評価と比べて相当個人的な好みが点数に反映されます。

5:項目別評価

 次の5つの項目

  • ストーリー
  • 構成
  • キャラクター
  • 文体・表現
  • 読了感

 に分けてそれぞれ10点満点、計50点満点で評価します。こちらはできるだけ公平な評価にするようにしています。

 

【映画「モンスターハンター」原作ゲームファンによるネタバレ感想】「この映画はモンハン風味のB級アクション映画として見ろ!!」

0:目次

1:映画情報

 題名【モンスターハンター

 監督・脚本【ポール・W・S・アンダーソン

 出演

  アルテミス【ミラ・ジョヴォヴィッチ

  ハンター【トニー・ジャー

  他

monsterhunter-movie.jp

2: あらすじ

www.youtube.com

 

 ミラ・ジョヴォヴィッチ演じる国連部隊の大尉「アルテミス」はアルファチームの仲間達と共に行方不明となったガンマチームを探すために荒野を進んでいた。すると、雷と砂嵐に巻き込まれ、異世界(つまりモンスターハンターの世界)に飛ばされてしまう。そこで人類の兵器ではあり得ないほど黒焦げになったガンマチームを発見したり巨大な肋骨を発見したりすることでアルテミス達はそこが異世界である事を悟る。そしてハンターの警告にも気づかずに、アルテミス達は双角の竜ディアブロスや巨大毒蜘蛛ネルスキュラの群れに襲われ、アルテミスだけが生き残る。

 孤独になったアルテミスはモンスターにおびえながら砂漠を探索しようとするが、トニー・ジャー演じるハンターに敵だと認識され襲われる。アルテミスとハンターの激しい戦闘の末に和解し、砂漠を越えるために協力してディアブロスを倒すことにした。

アルテミスは双剣の使い方を学び、協力してネルスキュラを討伐し毒針を入手する。その毒と罠を利用し、怪我を負いながらも見事アルテミスとハンターはディアブロスを討伐する事に成功した。

 安全になった砂漠を越え、二人はオアシスにたどり着く。しかしそこにリオレウスがその上空を通り、それに驚いたアプケロスの群れに襲われる。そこにハンターの仲間である大団長や受付嬢、他のハンターが現れ助けてくれる。アルテミスは礼を言うが、大団長に殴られ気絶させられてしまった。

 アルテミスが気がつくと檻の中に閉じ込められていた。なんとか脱出して大団長に話をしに行く。アルテミスが大団長に何故私を捕らえたのかをと聞くと、そちらの世界(アルテミスの住む現実世界)はこちらの世界(ハンターの住むモンハン世界)に災いをもたらすから捕らえたのだと言われる。話を聞くと、大団長達はそちらの世界とこちらの世界をつなぐとされている「塔」に調査をしにいくところだった。アルテミスはその調査に協力することになった。

 塔に到着すると、塔の守り神的な存在である巨大なリオレウスに阻まれる。激しい戦闘中、アルテミスがリオレウスに吹き飛ばされるとその下にゲートが出現し、アルテミスは現実世界へと帰還する。

 アルテミスは救助されるが、ゲートを通って現実世界に来たリオレウスにヘリコプターが襲われ墜落してしまう。なんとか生き残ったアルテミスはモンハン世界の武器スリンガーを使ってリオレウスに大ダメージを与える。しかし油断してしまい殺されそうになるが、リオレウスと同時に現実世界にやってきた大団長とハンターに助けられ、リオレウスを討伐することに成功する。

 しかしすぐに雷と共にゲートが現れ、ゲートの向こうに塔の頂上からこちらに向かってくるゴア・マガラの姿が見えた。大団長はアルテミスに、これからも現実世界にモンスターがゲートを通って現れるであろうということを伝える。アルテミスはモンハン世界に戻り、さらなる戦いに身を投じることを決意する。

 

3:感想

 

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 まず、一言。『俺の知ってるモンハンはこんなんじゃねぇ!!!!』

 

 ふう。まあ、とりあえず言いたいことは言ったので落ち着いて感想に入ります。

 皆さんは、モンスターハンターの映画化と聞いてどのようなストーリーを想像するでしょうか。原作ゲームのファンであれば昔のゲームのストーリーのように、村のハンターとなった主人公が成長していく物語や、はたまたワールドのようにハンターが新天地を調査していくといったものを想像すると思います。

 しかし、この映画は違います。あらすじを読んでもらえれば分かると思いますが、現実世界の兵士がモンスターハンターの世界に転移しモンスターと戦うという、いわゆる異世界ものの作品です。

まあ、別に面白ければそれでもいいでしょう。

 

面白ければ!!!!

 

この映画が問題なのは、そのストーリーがおもしろくないというところです。

 

 まず、ほとんどセリフが無い。ハンターは現地の言葉しか話せないためアルテミスとの意思疎通が難しい、ということは分かるのですが、ハンターとアルテミスは作中、かなりの時間殴り合いをしています。最初はお互いに敵だと思っているということの演出なのかもしれませんが、それにしても人間同士で戦っている時間が長すぎる。体感ですが、ハンターとアルテミスが一緒にモンスターを狩る時間よりも二人で殴り合っている時間の方が長い気がします。折角モンハンの世界なのに。しかもそんなに戦っていた割に、一瞬で和解します。この殴り合いの必要性が全く感じられず、セリフもなくただ延々と人間同士で争っているのを見せられる時間ははっきり言って退屈です。

 そんな前半もひどいですが、後半はもっとひどいです。後半ではアルテミスと同じ言語を話せる大団長や他のハンターも登場します。それなのに、大団長とまともに会話をしません。よく分からないうちに仲間になり、理由もよく分からないままみんなで塔に向かうことになります。ここから超スピードでストーリーが進んでいくので全く理解出来ません。

 

過程をすっ飛ばして塔に到着すると、そこにはリオレウスが!!!

 

 そしてリオレウスと戦闘になりますが、何故か戦闘中にアルテミスが現実世界に帰ります。これが本当に唐突です。劇場で変な声が出そうになりました。

そしてアルテミスは救助され一件落着、と思いきやゲートを通ってリオレウスが襲いかかってきます。

 そしてよく分からないままみんな現実世界に大集合してサクッとリオレウス討伐。そして突如ゴア・マガラが出てきて、俺たちの戦いはこれからだ!!という感じで終わります。

 

この映画に、理由や論理を求めてはいけません。登場人物の人物像や過去を掘り下げることは一切ありません。主人公のアルテミスが意味ありげに指輪を眺めたりもしますが、特に意味はありません。ただ単に指輪マニアなだけなのでしょう。

ハンターも単語でしか話せない野蛮人という描写がされており、現地でハンターをしているという描写は全くありません。

そして戦闘。ゲームでは大剣や双剣などのメイン武器でモンスターを狩るのが主であり、罠やスリンガーはあくまでもその補助的な立ち位置でしかありません。しかしこの映画ではメイン武器をまともに使うシーンが数えるほどしかありません。

さらに、主人公のアルテミスは双剣を持っているのですが、覚えている限り、大型モンスターに対して一度もまともに使っていません。ハンターがモンスターに突き刺した大剣を押し込んだり、スリンガーで発煙筒を口に発射したり。確かに巨大なモンスターに人間の持てる程度の刃物で立ち向かうのは映像的に違和感がありますが、モンスターハンターの映画化として、そこはどうにかして欲しかったところです。

 

設定的なところを見ても、ひどさが目立ちます。

例えば、現実世界とモンハン世界をつなぐゲートというものがあるのですが、これも意味が分かりません。作中では古代文明のテクノロジーで作られたものと言われていますが、その古代文明についての言及は殆がないのです。はっきり言ってゲートはモンスターと全く関係が無いし、何故古代文明が現実世界とモンハン世界をつないでいたのかなど全く触れられません。

 

しかも、その古代文明の遺跡である塔の守り神がリオレウス。これが本当に理解出来ません。

ゲームをやったことがあるのであれば、モンスターハンター世界におけるモンスターは、あくまでも「強大な力を持った野生動物」という扱いであり、魔物や神のようなものではない、ということが分かると思います。ゲーム中のリオレウスも、その土地を統べる主のような扱いを受けることはあっても、何か古代文明を守るような役割を担うことはありません。

まあ、強いてそのような役割のモンスターといえば、古代文明の遺跡であるシュレイド城に住むミラボレアスなどもいます。が、ミラは「古龍」であり通常の「竜」とは明確に区別される存在です。そこをいい加減にして、さらにラスボス的なモンスターには古龍の中でも異色の存在であるゴア・マガラを登場させた意味も分かりません(正確にはゴア・マガラの種族は「分類不明」であり、「古龍種」なのはその成体であるシャガルマガラですが)。

 

ここまでこの映画について否定的な部分ばかり言ってきましたが、この映画の全てが悪かったのかと聞かれれば、そういうわけではありません。

まず、強大なモンスターに襲われるシーン。ホラー要素の多いバイオハザードの映画の監督作品であるということもあり、暗い洞窟の中でネルスキュラに襲われる場面などの緊迫感やスリルは素晴らしかったです。

さらに、アクションシーンの演出も良かったです。スローモーションを多用しすぎてクドい部分もありましたが、派手な爆発やスリリングな戦闘も多く、その部分だけ見れば充分に楽しめました。

 

ということで、このあたりで感想を終わりたいと思います。

結論としては、ストーリーやキャラクターについて考えずにアクションや演出だけを楽しむ、モンハン風味のB級アクション映画としてなら最高。モンハンの映画化としてみるならば駄作。そんなところです。

 

あと、私は3D 4DXでこの映画を見たのですがかなり良かったです。4DXはストーリーに集中しづらいので映画によって向き不向きがあるのですが、この映画の場合はストーリーを気にすることなく演出やアクションを楽しめるため、むしろその点が長所になっています。

お近くに4DXの劇場があれば是非4DXでご覧ください。おすすめです。

 

4:最後に一言

 この映画を見て「俺の知ってるモンハンはこんなんじゃねぇ!!!!」となった方には、モンスターハンターの公式ノベライズ作品をおすすめします。

 こちらは映画のように異世界転移ものではないですし、ゲームの雰囲気やストーリーに則ったまま、とても面白い作品となっています。

 

www.amazon.co.jp

このノベル版のストーリーで映画化されていればこんなことにはならなかったんだろうなぁ。

 

さて、映画の公開と同時にモンスターハンターライズが発売になっています。まだほとんどプレイできていませんが、今のところ超おもしろいです。映画を見るのは後にして、皆さんもモンハンライズ、やりましょう!!

 

【感想:本】雨の日のアイリス 著:松山剛 電撃文庫

0:目次

1:書籍情報

 題名【雨の日のアイリス】

 著者【松山剛】イラスト【ヒラサト】

 レーベル【KADOKAWA電撃文庫

 2011年5月10日 初版

 2012年5月10日 2版

雨の日のアイリス (電撃文庫)

雨の日のアイリス (電撃文庫)

 

2: 作品概要

 ある工学博士のメイドロボット「アイリス」は、ある日道ばたでスクラップ同然の姿となって発見される。幸せな暮らしをしていたはずのアイリスが、何故このような結末にたどり着いたのか。アイリス自身の一人称で語られる感動物語。

3:総合得点 66/100点

総合得点:66/100点 

 総括的評価:36/50点

 項目別評価:30/50点

4:総括的評価 36/50点

『不思議な世界観で進行する、王道ながら起伏に富んだ展開。美しくまとまった結末には、感動が待っている』

 

「ロボットの人権」という題材は、多くのSFで取り扱われてきた題材だろう。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」をはじめ、私自身もこのテーマに関わる小説を幾つも読んだことがある。この小説はそんな、良く言えば王道、悪く言えばありきたりなテーマの作品だ。

 この作品は、前半と後半で大きく物語の性質が変わる。前半はメイドロボットである主人公と、その主人であり工学博士である人物との日常がコミカルに描かれる。そして後半は、突然訪れた転機によって前半とは全く違う展開で進行してゆく。それでいて前半も後半も一つの物語として綺麗にまとまっており、二つの雰囲気の違いがむしろ良い対比となっている。前半の日常パートで張られた伏線が後半に回収されるという構成も秀逸だ。

 ただ、概ね予想通りの展開で結末まで進み、大きく話が動くときには露骨にその事を仄めかす文が入る点は、面白みが薄いと感じた。確かに衝撃的なシーンは多くあるのだが、それが起きると前もって予告されてしまえばその衝撃は半減してしまう。

 ところで、この作品のい世界観はかなり面白い。相当科学技術が発展し、高度なロボットを作る事ができるだけのテクノロジーがあるのにもかかわらず、二足歩行ロボット以外の科学技術レベルは現代とそう変わらないか、むしろ低いくらいである。そのような異常な技術レベルの偏りがある世界観はとても魅力的で、興味深かった。

 しかしその背景などが作中で語られることは一切ない。精神回路(マインド・サーキット)なる素子が技術の根幹を成すという事だけはなんとなく読み取ることができたが、科学技術の偏りに関わりそうな作中の要素はこれのみである(私が気がつくことができなかっただけかも知れないが)。そしてその精神回路(マインド・サーキット)なる素子がいかなる物なのかさえも全くといっていいほど語られない。ロボットが人間と同じようにテレビから情報を仕入れ、全てのロボットが人間の姿を模した姿で、それぞれの役割に最適化されることなく業務を遂行するという、かなり不思議な環境に一切の説明がないことにはとても不満だった。

 その不満点が物語の随所随所で気になってしまい、物語に集中する妨げになってしまった。ストーリーの完成度はかなり高いため、その点が非常に残念である。

5:項目別評価 30/50点

5-1:ストーリー 8/10点

  ストーリーについては、しっかりと起伏も盛り上がりもあり秀逸である。伏線も多く、全編を通してだれることなく一気に読むことができた。

 主人公の、ロボットだからこその悩みや思い、そして仲間や家族への感情が複雑に絡み合った物語は、分かりやすいながらも深い。前半では少しの笑いもあり、全体的な完成度がとても高いと思う。

 一巻でしっかりと完結するのも良い。

5-2:構成 4/10点

  構成については概ね違和感を覚えるような点は見当たらなかったが、全体を通して少しだけ残念に思う事があった。それは劇的な展開を迎える前に、あまりにも露骨な仄めかす演出が入るという事だ。

 この作品にはいくつか衝撃的な展開を迎える部分がある。それ自体は最高なのだが、事前にいつ頃に劇的な展開を迎えるかがはっきりと分かってしまい、その劇的な展開がどのような物なのかもなんとなくであるが予想が付いてしまう。起こると分かって迎える劇的な展開は、もう劇的な展開とは呼べない。読者は、無意識にしらけてしまうからだ。

 確かにこの構成のおかげで安心して読み進めることはできるかも知れない。しかし、その安心感と引き換えに、物語のハラハラドキドキ感、つまりは緊張感を手放してしまうことになる。それならば、その劇的な展開をより盛り上げるような構成の方が良かったのではないだろうか。

5-3:キャラクター 6/10点

 この作品のキャラクターは、それぞれの立場によって最も映える要素を詰め込んであるような感じがした。主人公をはじめとするロボット達は、ロボットならではの魅力を存分に引き出されており、人間は人間でとても魅力的だ。

 ただ、物語上の役割を果たすために作られたキャラクター、という印象を持った登場人物も何人か見受けられた。多少は仕方ないと思うが、それがあまりにも露骨であったため読み手としては幻滅してしまった。

5-4:文体・表現 4/10点 

 文体・表現については、気になる点があった。それは、登場人物が絶対に知っているはずのない単語を用いて世界観を説明している部分があった点である。

 この作品は、今の私達がいる世界とは全く別の世界の話だ。つまり、この作品の登場人物は、私達の世界には存在してこの作品の世界には存在していない物を知っているはずはない。それなのに、そのような物を例に挙げて、この作品固有の生物や事柄を説明する点が見受けられたのだ。

 三人称で語られる物語ならば良い。しかし、一人称で語られる作品でこの説明をされると大きな違和感を覚えてしまう。私は読み進めるに当たって、そのような説明がされるたびに何かが引っかかるような感覚を持ってしまった。

 その点以外は、擬音が多いという事が少し気になった程度で、読み進めるのに支障は無かった。

5-5:読了感 8/10点

 この作品の読了感は、本当に気持ちが良かった。ただ清々しいだけではなく、何か大きな物が心に残っているような、そんな重みも感じられる、深い味わいを含んだ気持ちの良さだ。

 手放しにハッピーエンドだとは言えないのかも知れないが、このような結末だからこそこの読了感を生み出すことができているのだと、私は思う。

6:最後に一言

 今回は無し。

7:このブログについて

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【感想:本】Hello,Hello and Hello 著:葉月文 電撃文庫

0:目次

1:書籍情報

 題名【Hello,Hello and Hello】

 著者【葉月文】イラスト【ぶーた】

 レーベル【KADOKAWA電撃文庫

  2018年3月10日 初版

Hello,Hello and Hello (電撃文庫)

Hello,Hello and Hello (電撃文庫)

 

2: 作品概要

 主人公は、名前も知らない可憐な少女と、何度も出会う。その少女は、何故か主人公の事をよく知っており、いつも突然現れて、「初めまして」と声をかける。そんな、繰り返される「出会い」を巡るちょっと不思議なラブストーリー。

3:総合得点 69/100点

総合得点:69/100点 

 総括的評価:39/50点

 項目別評価:30/50点

4:総括的評価 39/50点

電撃大賞、金賞受賞作。その賞に相応しい、切なくも美しいラブストーリー』

 

  恋愛と小説は、切っても切り離せない関係にある。多くの小説には少なからず恋愛要素を含んでおり、それがメインストーリーになることもあれば、メインストーリーのアクセントとして組み込まれている事もある。

 そして、その多くは現実世界では起こりえないことだ。これは考えてみれば当然のことである。現実世界では起こりえないからこそ、私達は空想し、その世界の恋愛を楽しむのだから。

 この作品は、舞台は現実世界の現代ではあるものの、ファンタジックな要素も多分に含んでいる。そして、そのファンタジックな部分が、この小説をこの小説たらしめている。

 ところで、人間は二度死ぬ、という話を聞いたことはないだろうか。一度目の死は、通常の肉体が死んだ時、二度目の死は、生きた人間の記憶の中から消える時である、というような話である。

 時に、人は肉体的な死よりも後者、記憶的な死を恐れることがある。この小説の根幹にあるのも、そのことに関する事柄なのかも知れない

 ネタバレになるためこのくらいにしておくが、この手の作品は最近流行っていると私は思う。少し違うかも知れないが、「一週間フレンズ」という漫画作品や「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」という小説など、最近のヒット作品をざっと見てみてもいくつかこの手の作品を見つける事ができる。

 よって、この小説はコンテンツの出来としては最高でも、このような雰囲気・設定の作品は私にとって少しだけ食傷気味である。そこに深く切り込めれば、よりオリジナリティーのある作品になったのではないかと、私は愚考する。

5:項目別評価 30/50点

5-1:ストーリー 7/10点

  物語の性質上、前半はエピソードがぶつ切れになって繰り返される。しかしそのエピソードは小粒ながら、一つ一つの出来が素晴らしく、同じような展開が続いても飽きることはなかった

 後半になって物語が大きく動くと、前半の所々に伏線となっていた場所が見受けられ、それらが美しいまでに組み合わさるのはとても心地よかった。

 ただ、前半の掘り下げが多すぎたせいか、後半のテンポが少し駆け足気味に感じられた。もう少し前半は簡略化して後半に比重を置いたほうが物語として自然な気がする。

5-2:構成 4/10点

  ストーリーの項目でも言ったが、物語のフェーズの配分が少し不自然だった気がした。確かに前半の掘り下げのおかげで後半の怒濤の展開が際立ったのは確かではあるが、それが「必要かどうか」と問われれば、必要ないと思う。

 その分後半を長くした方が、構成として違和感が少ないのではないかと私は思う

5-3:キャラクター 6/10点

 主なメインキャラクターは主人公を含め、3人のみである。そのため、一人一人にしっかりとスポットライトが当てられ、魅力的なその3人のキャラクターが伝わってきた

 ただ、1人だけあまりにも不憫な登場人物がいた。その登場人物は、いわゆる「負けヒロイン」であり、物語としては欠かせない存在で、役割であることは確かである。

 しかし、これは個人的な見解なのだが、あまりにも物語のせいでキャラクターが歪められると、私は拒絶反応を起こしてしまうようだ。そのため、この与えられたロールのせいで手放しに幸福とはとても言えない結末を迎えるこの登場人物があまりにもかわいそうだと思ってしまった。

5-4:文体・表現 6/10点 

  この作品の表現は、兎に角美しく、綺麗である。具体的にどのような部分が、とは明言できないのだが、どこか文章がキラキラと輝いているように見えるほどこの小説の表現は綺麗である。

 しかし、地の文の語り部分と、そうでない部分が雑多に交じり合っており、読んでいて少し違和感がある部分があった

5-5:読了感 7/10点

  物語は、概ね予想通りの結末を迎える。決してハッピーエンドとは言えないのかも知れない。しかし、これはこれで温かく、心地の良い読了感を味わうことができた

6:最後に一言

  以前は恋愛小説、というだけで手にも取らないほどラブストーリーを忌避していたのだが、最近は少しずつであるものの読むようになった。これからもいろいろなジャンルの小説を読むようにしていきたいと思う。

7:このブログについて

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【感想:本】ノーゲーム・ノーライフ10 ゲーマー兄妹は過去(ツケ)を払わされるようです 著:榎宮祐 MF文庫J

0:目次

1:書籍情報

 題名【ノーゲーム・ノーライフ10 ゲーマー兄妹は過去(ツケ)を払わされるようです】

 著者【榎宮祐】イラスト【榎宮祐

 レーベル【KADOKAWAMF文庫J

 2018年2月25日 初版

2: 作品概要

  前巻の最後でクーデターを起こされて王座を終われた空と白は、何事もなかったかのように薬屋を経営していた。そんな平穏? の中で突如地精種(ドワーフ)から手紙が届く。それは、空と白が後回しにしてきた過去(ツケ)の清算を迫るものだった。そして、空と白はそのツケの清算のために奮闘することになる。

3:総合得点 63/100点

総合得点:63/100点 

 総括的評価:34/50点

 項目別評価:29/50点

4:総括的評価 34/50点

ライトノベル、ないしは小説そのものの概念を超越する作品。定石を壊される』

 

  「よく分からない」。私がこの本を読み終えて最初に感じた印象はこれである。ストーリーや物語の流れが分からないのではない。なぜ分かっているのかが分からないのだ

 はっきり言って文章は支離滅裂である話し言葉と書き言葉は混じり合う。存在しないルビ、無駄に多用されたダッシュ、片仮名と平仮名が混在した台詞、様々なウェイトで表記された様々なフォント。その全てが通常の文章では「あってはならない」もののはずであり、本来ならば「理解できない」形式の文章である。

 しかし、この小説では「理解できてしまう」のである。いや、理解はできていなくとも、感覚的に分かってしまうのだ。物語がどのように進み、何が起きて、何を言っているのかが。

 これは10巻であり、今更なのかも知れない。しかし、それでもこの独特の感覚はこのこの著者の著作にしか存在しない唯一無二の文体で、この小説のオリジナリティーの一つである。

 さて、内容についてだが、10巻となり、物語は終盤にさしかかったといってもいいのかもしれない。とはいってもまだ全く明言されていない種族も数多くあり、まだまだ続く気もするのだが

 今作では地精種(ドワーフ)がメインキャラクターとして登場する。今まで殆ど登場することのなかった種族だったのだが、なかなか強烈な個性を持っている種族である。

 そのせいもあるのかも知れないが、強烈なキャラが増え、一人一人がそれぞれ独自の世界観で生きているような感覚がした。その極端な性格がお互いをつぶし合い、喧嘩両成敗という訳ではないが、それぞれの存在感を薄くしあっているような。

 もう長く続いているシリーズなのでしょうが無い事ではあるのかも知れないが、これ以上人数を増やすと収集がつかなくなるような気がする。もしかすると、もうなっているのかもしれない。

5:項目別評価 29/50点

5-1:ストーリー 7/10点

 ストーリーは、いつものように空と白が、弱者のまま強者と渡りあうというものである。 10巻続いてもその面白さは衰えを知らず、今回も想像の上をゆくオチを魅せてくれる

 ただ、マンネリ化してきているという印象を拭いきれなかった。たしかに予想を超えた事が起こるのだが、今までにも多く起こりすぎていて感覚が麻痺してくる。そのせいか、初めの頃ほどの高揚感を味わえなくなってしまった

5-2:構成 5/10点

 場面の転換のタイミングが謎であり、読んでいて不思議な感覚になる。しかし特に違和感はないため、評価不能、という事で5点にする。

5-3:キャラクター 4/10点

 個々人で見るとキャラクターは魅力的だ。今作から登場する地精種(ドワーフ)のキャラクターの性格も思わず笑ってしまうような楽しい者達ばかりだ。

 しかし、如何せんキャラクター達が飽和していた。何処をとっても強烈な性格のキャラクターがお互いを潰し合い、それぞれの魅力を減衰させ合ってしまっている。

5-4:文体・表現 8/10点 

 よく分からないが、この独特の文体は最高だ。根拠など何処にも存在しないが、最高なのは最高なのである。物語の内容は、理性で分からずとも、感覚で分かっていればいいのだ

5-5:読了感 5/10点

 今回も、予想を超えた終わり方で締めくくられる。しかし、強烈なキャラクターで物語全体が飽和しているせいで「やっと終わった」と、疲れが勝ってしまった。そのため、±0で5点を付けた。

6:最後に一言

 長く続いた作品は、大体10巻を超えた当たりからマンネリ化してくる事が多い。個人的には長くだらだら続くよりスパッと潔く終わった方が気持ちよいのだが、商業的な理由もあってだらだらと続く事が多い。この作品はそうならない事を切に願っている。

7:このブログについて

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【感想:本】なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る 著:野崎まど メディアワークス文庫

0:目次

1:書籍情報

 題名【なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る】

 著者【野崎まど】

 レーベル【アスキー・メディアワークスメディアワークス文庫

 2013年4月25日 初版

 2016年3月7日 第10版

2: 作品概要

 ある日、主人公は人の言葉をしゃべる謎の白いうさぎに出会う。そのうさぎは、人と人との「縁」を切ったり結んだりできるという。そしてその影響からか主人公も「縁」が紐のような形で見えるようになる。それをきっかけに主人公とうさぎは、人と人との「縁」にまつわるトラブルを解決してゆくことになる。

3:総合得点 78/100点

総合得点:78/100点 

 総括的評価:38/50点

 項目別評価:40/50点

4:総括的評価 38/50点

『「縁」をテーマにしたどこか心温まる物語。良くも悪くも「らしくない」作品』

 

 この小説の著者である野崎まどは、私が最も好きな作家である。私はこの作品を読むまでに、野崎まどの書いた小説を相当数読んできた。その上でこの作品の感想を言えば、「らしくない」という物になる。

 この作品は人と人との「縁」というのが重要なテーマとなっている。一言に「縁」と言ってもそのあり方は様々であり、一様にその意味を定めることはできない。友達同士の縁。家族の縁。そして、恋の縁。それは時に本人の意思とは関係なく繋がり、そして切れてゆく。そんな流動的な「縁」を司る「妖精」や「神」というようなものとして、この作品では「うさぎさん」という存在が登場する

 「うさぎ」という動物が「縁起の良い動物」という意味で「縁」を隠喩しているのかは定かではないが、兎に角この「うさぎさん」というキャラクターが魅力的だ。可愛らしい見た目をしていながら行動はニートのおじさんそのもので、主人公をいいように扱う。しかしやるときはやるというギャップに富んだ、人間よりも人間らしい性格は温かい物語をより一層引き立てている

 野崎まど特有の語り口はこの作品でも遺憾なく発揮されており、コミカルで冗談めいた文体は妙な吸引力があり、大いに楽しむ事ができた

 この作品では概ね重いストーリーが排除されていて、安心して読むことができる。いつもの野崎まどとは大違いである

5:項目別評価 40/50点

5-1:ストーリー 8/10点

 ストーリーは、主人公の周りの人物の「縁」に関する問題を主人公とうさぎさんのコンビで解決するという流れで進行する。それぞれの章のなかでうまくストーリーがまとまっており、混乱することもなかった

 最後の章も含め、基本的に主人公は問題の当事者になることはない。そのため主人公は終始うさぎさんと周りの人々に振り回される事になる。その部分が、主人公が主人公らしくないと少しだけ思った。

5-2:構成 7/10点

  この小説は4つの短編が組み合わさることで構成されている。このような構成はよくあるので、違和感を覚えることはなかった

 また、章ごとに細かな伏線もあり、殆どの場合その章の中で回収される。しかし一部の伏線は章を跨ぐことがあり、これこそが短編集では味わえない長編の魅力だと思った

5-3:キャラクター 9/10点

 野崎まどの大きな特徴の一つに、実際には絶対に存在しないであろう極端なキャラクター性という物がある。この作品もその例外ではなく、数多くの登場人物が到底あり得ないような性格をしている。しかしその極端なキャラクターが、確かなリアリティーを持って物語を進めていく様は流石としか言い様がない

 特にそれが顕著なのは、主人公の一学年上の先輩である西院澄子という人物である。詳しくは小説を読んで欲しいが、全編に登場して読者に強烈な印象を与えるだろう。しかし、小説を読み終わったときにはその極端な存在が愛しく思えてくるはずである

5-4:文体・表現 9/10点 

 テンポ良く語られる文体は、脳内に直接言葉を埋め込まれるような不思議な感覚に囚われる。そもそも小説の理想型は、文章を文章として認識するのではなく、文章から意味だけを読み取らせることだと私は考えている。その点において、私の知る限りで野崎まどの右に出る者はいない。

 ただ、この作品は野崎まどらしくない「普通の話」であるため、その特徴的な語り口はマイルドになっている。それはこの物語の雰囲気上しょうが無いのだが、すこし物足りなく感じた。

5-5:読了感 7/10点

 読了感は概ね心地よく、心が温まった。ただ、最後の数ページのテンポが異様に早く、淡泊な印象を拭いきれない。さらに、野崎まど的な予想の斜め上を遙かに超えてゆくようなオチを期待して読むと、少しがっかりするかも知れない。

 しかし、野崎まどらしくない、とても気持ちの良い読了感であるのは確かである

6:最後に一言

  私は野崎まどが大好きで、大きな本屋に行くと必ず野崎まどの本を探す。私の家の近くの本屋では一冊も野崎まどの本が置いていない。そのため、私がそれらの本を買うときには殆どの場合インターネットである。家の近くの本屋にもおいて欲しいものである。

7:このブログについて

  • このブログは私が完全に読み終えた本を個人の偏見と独断で評価しています。反論や異議があればどんどんコメントなりメールなりをしていただけると幸いです。感想もお待ちしております。
  • 大きなネタバレはしないよう気をつけています。読む本を探すときなどにご活用ください。
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【感想:本】アルキメデスは手を汚さない 著:小峰元 講談社文庫

0:目次

1:書籍情報

 題名【アルキメデスは手を汚さない】

 著者【小峰元】

 レーベル【講談社講談社文庫】

 1973年8月 初出

 2006年9月15日 初刷

 2017年11月21日 第22刷

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

 

2: 作品概要

  第19回江戸川乱歩賞受賞作。ある女子高生の死を始めに、いくつもの不可解な事件が巻き起こる。その裏にある真実を巡り、大人と高校生が対立する青春ミステリー。

3:総合得点 68/100点

総合得点:68/100点 

 総括的評価:35/50点

 項目別評価:33/50点

4:総括的評価 35/50点

『青春小説と本格ミステリーの高度な融合。当時の若者達を幻視する作品』 

 

 私は70年代当時のことは全く知らない。知識としては知っていても、実際にその雰囲気を体験したわけではない。そのため今に残る写真や、動画などで知るばかりで、実際のところ70年代の日本とはどうだったのか、どのようなものだったのかは分からない。

 しかし、この作品からは70年代の人々の考え方、雰囲気のような物をなんとなくではあるが窺い知ることができた

 学生運動も退潮し、暴走族などが現れて、学生運動に参加していた大人達から「根性や反抗心がない」と言われた高校生。高いビルを地元の反対を押し切って乱立させる業者。暴動を起こす赤軍。そんな時代を踏まえてこの作品を読むと、自ずと作者の言いたかったことが見えてきた気がした

 40年以上も前に書かれた作品ながら、この作品の示す物は現代にも通ずる点があると思う。変動する若者の貞操観念や、それに思うところがある大人達。それぞれに信念や心情があり、お互いにそれらを守ろうと対立する姿勢。それら青春小説の因子を良質なミステリーで纏めたこの作品は、青春小説として見ても、ミステリー小説として見てもレベルが高く、エンターテインメント性にも優れている。当時はまだ「青春ミステリー」というジャンルすら存在していなかったのにも関わらずだ。

 「アルキメデスは手を汚さない」という題名を根底に展開されるミステリーは最近のミステリーと比べると少々明瞭さに欠けるが、題名に隠された真意が解けたときには鳥肌が立った

 もしかしたらこの作品は今の時代には合っていない部分も多々あるのかも知れない。しかし、当時の考え方や雰囲気を窺い知ることができるという点と、その時代柄を反映したメッセージ性を鑑みて、この点数にしたいと思う。

5:項目別評価 33/50点

5-1:ストーリー 7/10点

  ストーリー自体はミステリーの形式で展開していく。一つの事件を元に複数の事件が連鎖し、それらが一つの真実を示していくというミステリーの面白さは十二分に味わうことができた。そして、そこに青春小説的なメッセージ性が組み込まれており味わい深く、それでいて娯楽小説的なコミカルな展開をも楽しめた

 この小説のストーリーで最も印象的なのは、なんと言っても鮮やかなタイトル回収の部分だ。「アルキメデスは手を汚さない」という、この一見不可思議にも思える題名にはミステリー的な要素と、青春小説的なメッセージ性との両方が内包されている。それが美しいまでに解される瞬間、ここまでの高揚感を味わえる小説は、今日の小説でもそうそう存在しないだろう

5-2:構成 6/10点

  この小説は、主人公が存在しないという、今日ではあまり見ることのなくなった古典的なミステリーの形式で展開される。そのため少しだけ戸惑うこともあったが、大きな違和感を覚えることはなかった。

 ミステリー特有の緻密に練られた伏線と、それらを鮮やかに回収する構成はしっかりと存在しており、純粋なミステリー小説にも引けを取ることはない

5-3:キャラクター 7/10点 

 若者達をあの手この手で自分の手の届く範囲に収めようとする大人達と、それに対して粋がるように反発する高校生達の対比が圧倒的なリアリティで描かれていて、当時を感じることができた。一人一人を見てみてもそれぞれに信条のような物を感じることができ、本当に存在したのではないかと錯覚してしまうほどだった。

 ただ時代の考え方の差というのがあまりに著しく、感情移入する事はできなかった

5-4:文体・表現 6/10点 

  古風な表現が多く用いられており、読むのに少々難があった。しかしそこまでの違和ではなく、それも時代柄を示す一種の表現として役割を果たしている。

 その古風な表現の質は非常に高く、表現されている事が目の前に浮かぶようだった

5-5:読了感 7/10点

 ミステリーという物はストーリーの関係上、どこかやるせない終わり方であったり、不穏な場面で終わることも多いのだが、この作品は青春小説のようなすっきりとした終わり方である。そのため読了感は心地よかった。

6:最後に一言

  少し昔の作品は、古風な文体や表現のせいで数年前まで敬遠していた。しかし60年代に書かれた海外の小説を読んだことで、少しずつではあるが読むようになった。そして、そのあたりの日本や世界の情勢などを少しずつ知り、教養として身につけることができた気がする。

 私が小説を読むのは楽しいからであって、勉強や教養のために読んでいるわけではないのだが、楽しんでいる間にそのような教養を身につけることができたのであれば僥倖である。

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【感想:本】優雅な歌声が最高の復讐である 著:樹戸英斗 電撃文庫

0:目次

1:書籍情報

 題名【優雅な歌声が最高の復讐である】

 著者【樹戸英斗】イラスト【U35】

 レーベル【KADOKAWA:電撃文庫

2018年2月10日 初版

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

 

2: 作品概要

  怪我のせいでサッカーを辞めてしまい何事にも無気力になった高校生の主人公が、プロの歌手であるヒロインと出会うことで変わっていくボーイ・ミーツ・ガール。

3:総合得点 78/100点

総合得点:78/100点 

 総括的評価:40/50点

 項目別評価:38/50点

4:総括的評価 40/50点

『清々しいほど王道を往く、万人に薦められるボーイミーツガール』

 

  ありきたりな展開。どこかで見たことのある話。なのに、この小説に私は何処までも引き込まれた

「王道の展開」というのは確かに存在する。そして、その通りに進行していく物語は皆一様で退屈だ。だから面白さとオリジナリティーは切っても切り離せない関係にある。しかしこの小説は予想通りの展開にもかかわらず、心地よく読むことができた。そんな、不思議な引力がこの作品には存在する。

 正直、私は恋愛物が少々苦手だ。なぜなら、必ずどこかで不快な展開になることが多いからである。それに対し、この作品は何処までも美しく、純粋で綺麗だった

 主人公とヒロインの関係も素晴らしい。甘酸っぱい会話も、着かず離れずの微妙な距離も、全てが最も心地の良いバランスで構成されている。そして、誰もがこの2人の恋の成就を見守りたくなり、無意識に応援してまうのだ

 恋愛には理由が必要だと私は思っている。たとえそれが偽りでも、建前だったとしても、一組の男女が一緒にいることにはそれなりの理由が必要だ。そして、それがしっかりと描かれている小説は、多いようで意外にも少ない。そして、この作品はそんな少ないものの一つである

 主人公がヒロインのどのような部分に惹かれ、ヒロインが主人公のどのような部分に惹かれたのか。それが、変化する視点を通して克明に描写されている。だからこそ王道を往くストーリーであるにも関わらず確かな面白さを誇っているのかも知れない。

5:項目別評価 38/50点

5-1:ストーリー 8/10点

  兎に角、王道。この作品のストーリーを言い表すにはこの一言に尽きる。挫折の中にあった主人公を明るく照らすヒロイン、という前説からしてよくあるボーイミーツ・ガールという印象を持ち、読了した今でもその印象は変わらない。しかし、その王道がここまで気持ちよく描かれた小説は殆ど無い。変に独自性のある物よりも、こちらの方が遙かに優れている。そして、誰もがこの物語に心が動かされることだろう

5-2:構成 6/10点

 王道なストーリーの通り、構成も素直で分かりやすく好感が持てた。 

 しかし少しだけ気になる点もあった。この小説で描かれるのは主人公が高校二年生の時だが、ヒロインと主人公の過去も話の根幹にかなり関わってくる。そのため主人公とヒロインの過去のエピソードが所々に差し込まれる。ただ、それの差し込まれるタイミングに少しだけ違和感があった

5-3:キャラクター 9/10点

 兎に角この作品の登場人物は魅力的だ。挫折の中にあるが根は強く優しい主人公と、そんな主人公を立ち直らせようと画策するヒロインは勿論、友人、クラスメイト、家族。何処を見ても美しく輝いている。よくある、ストーリーの関係でねじ曲げられた人間も存在しない

5-4:文体・表現 7/10点 

  全編一人称ではあるが、自分語りをするタイプの一人称ではなく、客観的な一人称である。そのためライトノベルにありがちなクドさは全く感じない

 そして、この作品は視点が変わることがある。視点が変わるのは結構リスキーなのだが、この作品では視点が変わるメリットが最大限生かされており、違和感を覚えることはほぼ無かった

5-5:読了感 8/10点

  心地の良いストーリーの通り、読了感も透き通るように爽やかで気持ちが良い。概ね予想通りの結末を迎えるのだが、それでもここまで綺麗な読了感を味わえる作品はそうそう無い。そういう意味では、この小説の希有な部分なのかも知れない

6:最後に一言

 正直、この小説は読む前にはほぼ期待していなかった。しかし、その期待をいい意味で裏切ってくれたと言える。このような裏切りがあるから、面白そうだと思えない小説でも思わず手に取って読んでみたくなってしまうのだ。

 ところで、この小説にはサッカーの話が出てくるのだが、私はスポーツものがあまり好きではない。そもそも、いわゆる「スポ根」と呼ばれるような作品が小説というコンテンツにはあまり多くない。そのような物は殆ど漫画である。これは、小説を読むような層はインドア派が多く、スポーツに熱くなるような人が少ないという事を示しているのかも知れない。

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